BtoB事業の広告運用者が知っておくべきマーケティングフレームワーク 第2回 PLG・SLG
本ブログでは、“今すぐ人に話したくなるマーケティングの話”をテーマに、マーケティングに携わる人間が知っておくべき知識や、抱きがちな悩みに対するアドバイスを発信しています。
BtoB事業にフォーカスし、戦略理解を助けるための代表的なマーケティングフレームワークを紹介していくこの企画。
第2回はPLGとSLGです。
第1回 The Model はこちらPLGとSLGは、Go-To-Market戦略(GTM戦略)の一種であり、特にSaaS企業でとられることの多い戦略です。現在PLGは、Slack、Zoom、DropBoxなどの急速的な成長を見せる企業が活用しており、日本でもSaaSビジネスの新たな戦略になると注目されています。今回は、PLGとSLGを比較し、戦略の違いによって運用型広告配信がどのように変わるのかをお伝えします。
実はPLGとSLGは明確に分かれているわけではなく、2つの戦略がグラデーションになっているケースがほとんどです。二項対立で考えずに、各戦略を理解したうえで「自分たちの事業はどのような経路でリードを獲得できるのか?」「見込めるリード獲得数はどれくらいか?」などの議論を行い、企業のフェーズや事業戦略に合わせた具体的な施策を提案しましょう。
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目次
まず、GTM戦略とは?
GTM戦略とは、企業が市場に新商品を投入する際、どう顧客にアプローチし、営業やマーケティング活動を展開していくかを整理したアクションプラン、道しるべのことです。ビジネスプランの中でも、特に製品の投入に焦点を当てているのが特徴です。
具体的には以下の事柄を決めていきます。
- どの市場をターゲットにして販売するか(市場の把握)
- 該当する市場のターゲットオーディエンスは誰か(ターゲットの選択と顧客ニーズの把握)
- 製品をどのように顧客に届けるか(流通チャネルの選択)
- 価格は各ターゲットオーディエンスに対していくらであるべきか(製品のポジショニングと価格設定)
第1回でお話ししたように、戦術としての運用型広告は、戦略とリンクする必要があるため、GTM戦略をどこに置くかの違いは、運用型広告の配信方針に大きな影響を与えます。
戦術としての運用型広告は戦略とリンクする必要があるため、GTM戦略の違いが運用型広告の配信方針に影響を与えるのは想像に難くないでしょう。
このあと詳しく説明する「PLG」「SLG」はSaaS企業のGTM戦略に代表されるものであり、獲得を目的とした運用型広告戦略の決定に影響を与えます。
以降のパートでは、「PLG」「SLG」それぞれの特徴を説明した上で、「運用型広告にどのような影響を与えるか?」の仮説を共有させていただきます。
PLG(Product-Led Growth)とは
PLGは「Product sells itself :プロダクトがプロダクトを売る」ための戦略です。
米ベンチャーキャピタルのOpenView Partnersが名付けたもので、ユーザー獲得、アクティベーション、リテンションを、プロダクトそのものが担い、プロダクトがプロダクトを売るという連鎖を作り出します。
PLGでは、まずプロダクトを無料で開放し、価値を感じてもらったユーザーを有料版へと誘導するのが一般的です(フリートライアル)。無料体験中のユーザーをカスタマーサクセスさせていき、適切なタイミングで有料化への切り替えを促します。あくまで、プロダクトに価値を感じてくれたユーザーが自発的に有料版へ切り替えてくれるという流れです。そのため、PLG戦略は有料化までの間にほとんど人を介しません。プロダクトをいち早くユーザーに届け、その価値をできるだけ早く感じてもらうことを目標とするため、セールスサイクルが短く、わかりやすいプロダクトに適しています。
PLGの例として、よく挙げられるのがZoomです。
Zoomは1対1での利用や、複数人でも40分以内であれば無料で利用することができます(一部機能の無料開放をフリーミアムと言います)。無料で簡単に始められる点と、コロナ禍の追い風により、プライベートの利用者が爆発的に増え、そこからビジネスの場でも一気に普及。今や最も利用されているビデオ会議ツールとなっています。
ポイントは、ビジネスの場では複数名や40分を超える会議での利用が増えるということ。自然と有料登録が増える仕組みになっているのです。そして、これだけ有名なツールでありながら、Zoomのセールスと話したことのある人はほとんどいません。これが“プロダクト自身がプロダクトを売る”という戦略です。
SLG(Sales-Led Growth)とは
PLGに対してSLGは「Sales sells product :セールスがプロダクトを売る」戦略です。
SLGではセールスが頻繁に架電やメールをしてユーザーとの商談の機会を作っていき、個社ごとの課題に応じた提案を行うことで有料契約を獲得します。提案する相手はエンドユーザーだけではなく、直接製品を使わないマネジメントクラスの決裁者の場合も多く、複数回の提案を行うケースもあります。それゆえ、複雑性や新規性の高いプロダ クトに設定される傾向のある戦略です。つまり、SLG戦略では積極的に人を介してプロダクトの価値を伝えることで、受注を獲得する戦略と言えます。
SLGとして有名な手法が、第1回でご紹介した、The Modelです。「広告によってリードを獲得し、その後のナーチャリングやインサイドセールスによって商談化していく」のは、SLG的な戦略といえます。
PLG、SLGそれぞれの特徴を整理すると、以下のとおりです。
「プロダクトがプロダクトの価値を伝える」PLGと「セールスがプロダクトの価値を伝える」SLGとでは、組織体制やKPIの考え方が異なります。広告運用の方針を考えるにあたって、PLGとSLGのどちらに近い事業戦略を取るのか、事業の特性に応じて判断する必要があります。広告配信もGTM戦略に応じて変えていく必要があるのです。
運用型広告におけるSLGとPLGの配信方針の違い
では、具体的にPLGとSLG、それぞれの事業戦略をとると、実際の広告運用はどう変わるのでしょうか?運用型広告における、配信方針の違いを見ていきます。
PLGの広告運用
- 要となるフリートライアルやフリーミアムにCVポイントを設定し、数値を見ることが重要
- 低単価な製品に対して設定される傾向があり、その場合、投下できるCACが少ない
- “オークションを優位にするための媒体理解やベストプラクティス”が重要
(コンテンツなどで差別化しづらい)
👉※フリーミアム:プロダクトの一部機能を無期限で無料開放
※フリートライアル:プロダクトの全機能を有期限で無料開放
PLGでは運用型広告のCVポイントにおいても、すべてのユーザーにフリートライアルやフリーミアムを設置するのが定石です。PLGは低単価な製品に対し設定される傾向があり、その場合、投下できるCACが少ないため、ホワイトペーパー広告やウェビナー集客などの広告施策は適しません。「最終的に有料化する歩留まり」まで勘定した時に、1社獲得あたりの平均広告費が高くなる可能性があるからです。ホワイトペーパーの内容で差別化したり、多様なリード獲得経路を用意してCVRを向上する施策は取りづらくなります。(もちろん訴求やクリエイティブ変更などのLPOは有効です)
そうしてリード獲得経路が限定されるケースが多いため、広告オークションを有利にし、入札単価を抑えるための“媒体運用のベストプラクティス”の重要度が相対的に高くなると考えられます。加えてCVR改善への要素が少ない場合には、CPCで成果を改善しなくてはいけません。
SLGの広告運用
- 獲得リードの温度感に合わせてアプローチするため幅広いCVポイントが活用できる
- ユーザーのファネルに応じてコンテンツやCVポイントを変えていくため、コンテンツの内容やリード獲得経路の多様さが重要になる
- 投下できるCACが多く、かけられる広告費が多い傾向がある
SLGでは獲得したリードの温度感に応じてアプローチを変え、長いセールスサイクルを経て顧客に導入してもらうため、見込み顧客のファネルごとに「問い合わせ」「資料請求」「見積もりフォーム」「ホワイトペーパーDL」など、さまざまなリード獲得経路を検討できます。
また顧客単価が高く、許容できるCACも高い傾向があるため、目的やKPIに応じてホワイトペーパー広告など、”受注や商談化”の歩留まりが低い施策も実行する余地があります。
そのため、SLGの広告運用では「ファネルごとのリード獲得経路の設計やコンテンツの内容」が特に重要になります。つまりPLG同様に“媒体運用のベストプラクティス”の重要性は高いものの、ほかにも改善すべき変数がさまざまなポイントにあるのです。ゆえにSLGにおける広告運用は複雑性が飛躍的に上がります。
ここから派生して、実際の現場では、SLG戦略の広告運用でありながらフリートライアルやフリーミアムのリード獲得経路の設置を検討する場合もあるかと思います。しかしこの時には、ある注意が必要です。
SLG戦略では、提案に先んじてフリーミアムで機能の一部を無期限開放しても、エンドユーザーが直感的に価値を感じにくいというデメリットがあります。広告で獲得したリードがフリーミアムでプロダクトを体験しても、商談や受注にまでは至りにくいのです。
一方、フリートライアルは使い方次第で顧客獲得の可能性を高めるので、運用型広告のCVポイントとして検討できます。SLG、PLGへの理解が深まると、例えば下記のような議論が可能になります。
複雑性や新規性が高く、セールスサイクルが長くなりやすいプロダクトのため、基本はSLG戦略をとり、広告によるリード獲得、その後のナーチャリングやインサイドセールスによって商談化するのが良いと思われます。
しかし並行してPLG的要素を組み込み、プロダクトのフリートライアルの実施も検討したいところです。エンドユーザーに活用イメージをリアルに持ってもらえれば、セールスサイクルの短縮に貢献できます。運用型広告のCVポイントにフリートライアルの設置を検討してみませんか?
PLGの概念を体系的に紹介した日本初の書籍、ウェス・ブッシュ著『PLG プロダクト・レッド・グロース「セールスがプロダクトを売る時代」から「プロダクトでプロダクトを売る時代」へ』の監訳を担当したUB Venturesの下記ブログ記事でも、フリートライアルとフリーミアムの活用方法について詳細な解説がなされています。気になる方はぜひご確認ください。
ファネルごとにCVポイントを使い分けよう
実際の広告配信事例からみる特徴
ここまでのお話を検証するために、PLG、SLGを活用している企業が、実際に広告配信をしているランディングページの特徴を整理してみました。
PLG戦略を行っている企業の広告ランディングページ
Shopify
WIX
Jira(ATLASSIAN)
PLG戦略で事業成長してきた「Shopify」「WIX」「Jira(ATLASSIAN)」の3社の広告配信では、広告ランディングページ内にフリーミアムまたはフリートライアル以外の申し込みフォームは存在せず、サイト内リンクもほとんどありません。「PLGにおける運用型広告のリード獲得経路はフリーミアムかフリートライアルが定石で、ほかの広告は適さない」という内容のとおりです。
SLG戦略を行っている企業の広告ランディングページ
Marketo Engage(Adobe)
Smart HR
ZAC(株式会社オロ)
対して、SLG戦略をとる「Marketo Engage(Adobe)」「Smart HR」「ZAC(株式会社オロ)」の3社の広告配信では、以下のように「さまざまなリード獲得経路が設置してある」という共通点がありました。
この3社の広告配信事例も「SLGにおける運用型広告は、コンテンツの内容やリード獲得経路の多様さが重要になる」という内容に沿っています。獲得したリードのファネルに応じてアプローチを変えて商談化を目指すため、さまざまなリード獲得経路の設置が有効だと考えられているのです。
まとめ
SaaSと言っても業界やターゲットによって戦略はさまざまです。SaaSモデルの普及が広がる中、その成長戦略はアップデートされており、企業の戦略に応じて最適にフィットするマーケティング施策が求められています。本記事でフォーカスした要素以外にも
「なぜBtoB事業においてオフラインCVの実装を急がなければならないのか?」
「【BtoB事業向け】有効リード獲得の鍵は“経路”にあり ~施策7種まるわかり解説~」
など、BtoB事業の広告運用を成功させる上で押さえておくべきポイントはまだまだあります。それらの記事も順次公開をしていきますので、よければメールマガジンの登録やTwitterのフォローをお願いいたします。
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