【BtoB/SaaS】ダッシュボードで目的志向のマーケティングチームをつくる

広告主と代理店とがひとつのチームになり、目的に即した効果的な広告運用を実現するためには、「リードの品質をリアルタイムで評価できる環境づくり」はとても重要です。

その重要性を、私の経験を通じて共有したいと思います。

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背景

あるSaaSの、運用型広告のリード獲得支援のお話です。

ご支援開始当初、Facebook広告での獲得が好調だったため、常に目標とする有効リード単価(※)を達成することができていました。

しかし、以下のきっかけから、後続プロセスの「商談単価(※)」までをリアルタイムで把握し、広告運用の改善に取り組むことにしました。

  • リード単価改善が頭打ちとなったため、後続プロセスまでを評価対象とすることで、さらなる改善に向けた打ち手を見出す必要があった
  • 経営部門から「SQL(※)最大化」への方針転換がおこなわれ、商談化率(※)と商談獲得数をチャネルやコンテンツごとに把握する必要があった

※有効リード単価:学生や競合他社などの、受注し得ない無効リードを除いたリード1件あたりの獲得単価
※商談単価:商談化したリード1件当たりの獲得単価
※SQL:商談化の見込みがあり営業がフォローするべき対象と認定されたリード
※商談化率:有効リードからの商談獲得の割合

取り組んだこと

媒体データとオフラインデータをリアルタイムで参照できるダッシュボードを構築し、媒体ごとの商談単価や商談化率を可視化しました。

今回は具体的なダッシュボード内容の紹介は控えますが、以下に集計した実際のデータを共有します。(具体的な期間は非開示としますが、半年以上の実績です。)

各チャネルごとのリード・有効リード・商談獲得の実績

各コンテンツごとの商談化率

分析してみると、以下のような特徴がありました。

・Facebook広告の類似拡張は配信量がもっとも多く、約4万円で獲得できている
・次いで、Googleの検索広告の汎用キャンペーンの配信量が多く、約5万円ので獲得できている
・それぞれを比較すると、Facebook広告が2倍近く配信しているにも関わらず、獲得単価は20%も低い
・同じコンテンツでも媒体によって商談化率が異なる
・「比較資料」からの商談獲得が最も多い

まず「チャネル」の観点では「有効リードの獲得」という点でFacebook広告が圧勝でした。しかし、商談獲得を見ると以下の通り評価は大きく変わります。

・商談獲得単価では、Googleの検索広告の汎用キャンペーンの方がFacebook広告よりも47%低い

結果として、Google検索広告はFacebook広告の半分程度の広告費でありながら、商談獲得数を上回っています。ここまで大きな差が出ることも珍しいのかもしれませんが、後続プロセスを含めた評価の重要性がはっきりと分かる例です。

また「コンテンツ」の観点でみると、「商談化率の高さ」については「問い合わせ」が最も高い結果となりますが、「商談獲得数の多さ」においては異なる評価となります。

・商談獲得数では、「問い合わせ」よりも「比較資料」のコンテンツの方が23%多い
・「比較資料」の商談化率はそれほど高くないものの、有効リード獲得数が多いため商談獲得に貢献した
・主要チャネルであるFacebook広告とGoogle検索広告の汎用キャンペーンで獲得した有効リードのコンテンツごとの比率は「比較資料」経由であるものが最も多い

この結果からも、後続プロセスをチャネルやコンテンツごとに評価する重要性が分かる例かと思います。

※誤解のないように補足をしておきますと、当然ながら「どの指標の向上を最優先とするのか」は、戦略やシチュエーションによって変わります。例えば「効率よりも、まずは有効リードの獲得を最大化する」ことが求められるフェーズもあります。大は小を兼ねると言われるように、「まずは件数、その後に改善」というプロセスを辿ることは、往々にして効率が良いものです。

結果

上記ではある時点の集計値についてのみ触れていますが、実際には、これらの数字をリアルタイムで確認できるダッシュボードを導入しました。そのおかげで、そのときどきの方針に即した効果的な広告運用が実現できるようになりました。

例えば、「少ない予算で可能な限り受注確度の高いリードが欲しい」という方針に対しては、「検索広告で、直接的な問い合わせを狙ったり、製品資料のコンテンツに限定して広告配信をして、品質スコアの改善に注力する」という判断ができます。

一方、「SQLの獲得を最大化する」という方針に対しては、「比較資料のコンテンツで広告配信を行い、商談獲得のトップラインを引き上げる」という判断ができます。さらに、「広告予算が増加に伴い、リードと商談のトップラインを伸ばしたい」という状況であれば、「追加予算はFacebookを最優先に」という意思決定を、確かな根拠をもとに実施できます。

学びと考察

上記のとおり、広告運用者として後続プロセスまでリアルタイムで評価する重要性を身をもって経験したわけですが、さらに以下のことを学びました。

モニタリングの真価は「全体を俯瞰できること」

モニタリング環境構築は広告の投資対効果を高めてくれますが、それはあくまでも目指すべきひとつの結果に過ぎず、もっと大事な役割があると感じました。

それは、「関係者全員が全体を俯瞰しながら目的に対して最適なアクションが取れること」です。関係者には、クライアントのマーケティングチーム、セールスチーム、代理店の運用担当者など、さまざまな役割を担った人たちが関与し、目標達成に向けて取り組みます。

広告運用者の目線で言えば、リード獲得をKPIにして運用に取り組むと、ほぼ100%ある時期から獲得単価の改善が難しくなるフェーズが訪れます。そのときに、「リード獲得の効率をあげる」という目線だけでメディアバイイングやクリエイティブの改善に臨むのか、後続の歩留まりに目を向けて改善策を打つのかによって、単純に「打ち手の幅」が変わります。この視点を主体的に持つことができるかどうかは、モニタリング環境が整っているかどうかに依存します。

スタートアップの支援にこそ大事なモニタリング環境

リード獲得の品質をリアルタイムで評価できる環境をつくることは、特にスタートアップやベンチャーのような成長著しい企業にとって重要だと思います。

私の個人的な経験では、スタートアップやベンチャー企業は、さまざまな事情によってその時どきの集客方針が変わります。大きな資金調達によって「トップラインの伸び」を示すべきタイミングや、組織化が進み、マーケティング組織とセールス組織のオペレーションが整備されたタイミングでは、集客の効率向上が優先課題になることがあります。このような方針変化がとても激しいのがスタートアップだと思います。

だからこそ、広告運用の現場をよく知る代理店が主導になって、柔軟・迅速に事実ベースで集客方針の意思決定をサポートすることが求められます。このような要求に応えることのできるアジリティの高さこそ運用型広告の魅力であり、それを最大限に活かすためには、後続プロセスまで含めた広告効果の把握は必須と言えるでしょう。

コミュニケーションの質を高める

ダッシュボードを導入したことで、クライアントとの間に情報の非対称性が解消され、ヒアリングや情報共有にかける時間が確実に減少しました。より本質的な議論や施策の実行に注力することができるようなったことを実感しています。

多くの場合、代理店はクライアントのマーケティングチーム(≒MQL領域)には関与しますが、セールスチーム(≒SQL領域)への関与は少ないと思います。また、ダッシュボードによって後続プロセスの数値が可視化されることで、代理店にとってはクライアントのセールス組織についての情報が共有されるきっかけにもなります。後続のセールス組織のことを考え、集客が工夫を凝らすことは、チームで目的を達成するうえでとても重要な視点です。このような情報の非対称性の減少は、代理店が自律して行動するうえで非常に重要なことです。

ダッシュボードの構築は、ROIを可視化するけでなく、代理店とクライアントが同じ目線を持つための重要なコミュニケーションツールだと思います。

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