エンプラ獲得を推進するには?広告運用の具体的な方法と成功事例を徹底解説
BtoBビジネスにおいて、エンタープライズ企業との取引は事業成長を加速させる重要な戦略です。
その取引規模の大きさから、エンタープライズ企業をターゲットに据えることは多くのマーケティング担当者にとって優先事項となっています。
一方で同時にエンタープライズ企業開拓を目的に施策を行うのは難易度の高いことでもあります。
そこで本記事では
「エンタープライズ開拓をWeb広告で行うことは可能なのか」
「どのような活用方法であればエンタープライズ開拓に成功できるのか」
「エンタープライズ開拓の具体的な成功事例を知りたい」
など、Web広告を活用したエンタープライズ企業の開拓における具体的な運用方法や成功事例をご紹介します。
目次
エンタープライズ企業開拓はなぜ難しい?
Web広告の詳細な活用方法をお伝えする前に、なぜWeb広告を活用してエンタープライズ企業(以下、エンプラ企業)をターゲットにするのが難しいのかを先に説明いたします。
それはエンプラ企業の特性に対して、Web広告の強みである機械学習を活かした配信が行いづらい点にあります。
その要因を結論だけ簡潔にお伝えしますとエンプラ企業の「限定的なターゲット母数」、また「Web上の行動データ」の少なさが起因しています。
1.限定的なターゲット母数
Web広告は機械学習を利用した配信により広告効果を最適化しています。別の表現で言い換えれば、ある程度の母数が定期的に出現しないと最適化が進みにくいとも言えます。
そのような観点でエンプラ企業を考えると日本国内の企業約400万社のうち、資本金10億円以上の企業は約1万2千社、全体の0.3%未満に過ぎません。(総務省統計局「平成28年経済センサス‐活動調査」参照)
そもそものターゲット母数が非常に少ないため、エンプラ企業へリーチするだけでも高いハードルがあります。

2.受動的な情報収集
もう1つの特徴として、エンプラ企業の意思決定者は、日々膨大な営業提案に接しているため、自ら積極的に情報収集する傾向が他の企業に比べて低いという特徴があります。
そのため、結果的にWeb上で取得できる情報も限定される傾向があります。 上記行動特性がもともと少ない母数に加わることで、効率的にターゲットへアプローチする難易度がさらに上がってしまいます。
同様の課題は株式会社WACULの取締役 垣内勇威氏も、著書『デジタルマーケティングの定石』の中で、次のように指摘しています。
デジタルでは「見込み客の質」を高められない
デジタルには、人間の営業担当のような柔軟な説得ができないため、見込み客の質を高めることはできません。無理やり質を高めようとすれば、本来お客さんになるはずだった人までシャットアウトしてしまうのです。
(中略)
デジタルは、お客さんになる見込みが少しでもありそうな人を、大量に集めることに注力すべきです。見込み客の質を判断できる情報をヒアリングし、そのあとは営業担当が自らお客さんを選ぶべきなのです。
引用:『デジタルマーケティングの定石』 なぜマーケターは「成果を出すこと」に失敗するのか?
このような背景から、特定ターゲットを対象にしたマーケティング施策は難易度が高いと言われています。
ただし難易度は高くともいくつかの施策ではエンプラ企業への効率的な接触を可能にできるため、以降の章では弊社で実際にエンプラ企業など特定ターゲットの含有率向上に成功した事例や1CVあたりの収益性向上に寄与した施策をご紹介します。
運用型広告でエンプラ企業を狙う方法
ここからは弊社成功事例をもとに、改善ポイントとしてターゲティング、訴求軸/クリエイティブ、メディアプランニングという大きく3つの観点でそれぞれ見ていきます。
ターゲティング
ここでは運用型広告のターゲティング精度向上を果たす施策を紹介します。
今回の事例そのものは直接的にエンプラ企業の割合を高めた施策ではないのですが、それぞれ意図した特定ターゲットの含有率を高めるのに成功した事例です。
同様の考え方はエンプラ企業開拓を目的にする際に応用できる考え方のため、紹介いたします。
ターゲット含有率の向上①:キーワード精査
多くの企業でリスティング広告を活用していると思いますが、弊社の経験では取得したリードの内訳をキーワード単位まで確認しているケースは少なかったです。
またそもそも検索広告全体が成果が高いケースが多いので、キーワード単位で確認する有効性も認識されていないことも多いです。
しかし実際には、キーワード単位で自社のターゲットとして適切かを可視化してみると、キーワードごとに収益貢献が大きく異なることがわかります。
下記は不動産フランチャイズの事例なのですが、「不動産 収益物件」のキーワードはリード獲得単価だけでいえば目標内に収まっていたのですが、詳細まで確認するとすべてが無効リードであることがわかりました。

同様のキーワード精査をアカウント全体で行ったところ、獲得単価を7.6万→4.6万円と40%改善することができました。
キーワード単位で各リードがエンプラ企業に該当するかどうかを確認することで、同様にエンプラ企業の割合増加を期待することができます。
ターゲット含有率の向上②:広告文の変更
先程は特定ターゲットの含有率の高いものに集中するという話でしたが、今回は特定ターゲットに選ばれやすくするための方法です。その軸で広告文を適切に設計することの重要性をお伝えします。
具体的には、検索広告であれば見出し文に「エンタープライズ企業向け」などの明確なフレーズを含め、ディスプレイ広告ではコピーやビジュアルにターゲットを強調するメッセージを盛り込むことが有効です。
これにより、SMB(中小企業)のユーザーがクリックする可能性を低減し、意図しないリードを防ぐことができます。
例)「エンプラ向けノーコードツール」、「エンプラ特化の運用型広告代理店」、「大企業の労務管理でお悩みの方へ」
同様にBtoB企業のリスティング広告でよくあるケースとして、一般的なユーザーが検索する可能性もある語句へ広告掲載する場合も多いと思います。
その際、例えば上記のように「法人向け」などあえて制限をかけることで、無関係な人が増えるためCTRは下がりますが、その分CVRを高めることができます。
<弊社実績:「法人向け」を広告文冒頭に記した場合>
CTR3.5%→2.8%と低下したものの、CVRは4.5%→6.5%と大きく改善
ターゲティング精度の向上①:類似リストの精査
Meta広告を始めとする多くの広告媒体では、既存顧客や見込み顧客のリードを利用した類似ターゲティングが利用でき、それらは獲得効率の高い施策として多くの広告主に利用されています。
一方で元データは広告主側の顧客情報にあたることから、一度利用すると導入時のままとなっていることが多いです。 リード獲得効率を高めるためにリストの質と量は非常に重要なため、以下2点を特に注意しましょう。
1.リストの定期的な更新と拡充の重要性
カスタマーマッチリストは元となる顧客データに依存しますが、データボリュームが少なかったり、古いデータを使用したりすると学習が進みにくくなるという課題があります。 これにより、広告配信の精度や成果が低下するリスクが高まります。
そのため、以下のような対応が必要です。
- 定期的なデータの更新:新規顧客や最近の取引データをリストに追加することで、学習データを最新の状態に保つ
- リストの精査:無効なデータや古い情報を削除し、リストの精度を高める
これらの施策を継続的に実施することで、広告パフォーマンスの低下リスクを最小化できます。
2.類似オーディエンスの精度を高める調整方法
十分なオーディエンスサイズが確保できる場合、類似オーディエンスの拡張率を下げることでより精度の高い配信が一定可能になります。
もちろん元のリストに大きく依存するのですが、弊社の経験上、類似率10%までであればリードの量・質のバランスに大きな変化は見られないケースが多いです。
しかし、類似率をそれ以上に広げるとターゲティングが曖昧になり、成果が悪化するリスクが高まる傾向にあるため留意しましょう。
ターゲティング精度の向上②:エンプラへの重み付け
広告の成果を最大化するためには、オンラインだけでなくオフラインのコンバージョン(以下、オフラインCV)を活用することが効果的です。
たとえば、アポや商談といったオフラインCVを広告プラットフォームにアップロードすることで、それらに最適化した機械学習を促進することができます。
特にエンプラ企業をターゲットとする場合、次のような方法でオフラインCVを活用するのが有効です。
■ エンプラ向けにCV価値を重み付けする
オフラインCVをアップロードする際には、アポや商談に「価値」を設定することができます。
この価値設定を活用し、エンプラ企業に高い価値を付与することでエンプラ企業に最適化された機械学習を促進できます。
例:価値設定のイメージ
通常のリード1件を「1万円」と設定した場合、エンプラ企業のリード1件を「8万円」と設定することで、広告配信がエンプラ企業によりフォーカスされます。
注意点
重み付けの差を大きくしすぎると、エンプラ成果1件だけで学習が偏り、広告配信の精度が乱れるリスクがあります。 これまでの運用経験から、通常リードの最大10倍以下の場合に学習がスムーズに進むケースが多い傾向にありました。
オフラインCVを活用して成果を上げた事例の詳細が気になる方はあわせてこちらをご確認ください。
■ SA360を活用した高度な最適化
上記で紹介したオフラインCVは各媒体単位でも活用できますが、オフラインCVの性質上扱えるデータ量が少なくなってしまったり、重み付けの調整の難易度が高いため、1個1個の媒体で利用するのは負荷が高いこともあります。
そのような場合、SA360(Search Ads 360)を利用して複数媒体を一気通貫で運用するのも選択肢の1つです。
SA360は複数の検索プラットフォームをワンストップで最適化・運用できるツールです。
通常、媒体ごとに目標を設定して運用する必要がありますが、SA360を使用すればSA360上で一括して目標設定ができます。
その目標に基づき、複数媒体をまたいで自動的に最適化を行うため、効率的で一貫性のある運用が可能となります。

あるエンタープライズ企業の事例では、SA360を活用し商談単価を最大62.3%改善することができました。

この事例では、「オフラインCVで減少してしまう中での十分なデータ量をどのように確保するか」「どのようにオフラインCVを活用して運用したのか」を特に注意していました。
SA360を活用した運用の詳細は下記記事をご確認ください。
訴求軸・クリエイティブ
顧客に対してどのような訴求を行うか、その重要性は多くの方がご認識だと思いますが、ターゲット含有率を高めるのにも同様に有効です。
訴求内容ごとの獲得効率の確認
多くのBtoB企業ではリード獲得施策を行っており、ホワイトペーパーやサービス資料ダウンロードなど複数のCV地点を設けていると思います。
その際のリード獲得後のCPA(顧客獲得単価)は以下の順に高くなる傾向があります: 問い合わせ>資料請求>ホワイトペーパー
これらコンテンツごとの分析をおこなった事例はこちらをご確認ください。
ただし、これら傾向はあくまで平均的な事例のため、自社にも当てはまるかはきちんと確認することを推奨します。
弊社事例では下記のように、学習コンテンツとして制作したホワイトペーパーが問い合わせや資料請求を上回る効果を発揮し、アポ獲得単価の低下に大きく寄与しました。

なぜこのような結果になったかを考えると、この企業の商品には、以下のような特徴がありました。
- 商品特性が複雑:理解が難しく、技術的な背景や具体的な活用方法の説明が必要
- 用途が多岐にわたる:使えるシーンや活用方法、メリット・デメリットが明確でないと選定に時間がかかる
- 商品ラインナップが多い:類似商品が複数あり、その違いや選び方が分かりづらい
通常の製品カタログではこれらの疑問に十分に答えられず、ユーザーが「何を選べばよいかわからない」と感じ、最終的にアポに繋がらないケースが多かったのではないかと推察されます。
そのため、初心者でもわかりやすいよう40ページ以上に渡る「まるわかりガイド」によって理解が深まり、インサイドセールスが架電した際にも具体的な話がスムーズに進むようになったのではないかと考えています。
ユーザーニーズや商品・サービス特性、自社の製品ステージなどによっても獲得効率は変わってくるため、コンテンツ単位でもターゲットに対して適切な接点を持てているのか、確認することが重要です。
メディアプランニング
Microsoft広告の配信
エンプラ企業ではWindowsのPCを使用している割合が高い傾向にあり、初期設定のままBingを利用しているユーザーが多いことが特徴です。
そのため、Microsoft広告は他の広告プラットフォームに比べ、エンプラ企業への到達率が高い媒体として注目されています。
実際に他の媒体からMicrosoft広告へ一部予算を振り替えることで、全体の広告費を増やすことなくエンプラ企業からのリード数を増やすことができました。
あるSaaSベンチャー企業では、Microsoft広告への配信費用を2024年9月から12月にかけて2倍以上に増加させた結果、以下の成果を得ました。
- リード数が2倍以上に増加
- その中で従業員規模1000名以上のエンタープライズ企業からのリード数が、9月の11件から12月には24件へ増加

また、あくまでも弊社の経験ですが、Microsoft広告の効果は業界ごとに異なる傾向があります。
- IT・システム業界:ネットに精通したユーザーが多く、Google Chromeを利用する傾向が強いためMicrosoft広告の効果は相対的に限定的
- 製造業などの伝統的な業界:Windowsの初期設定のままBingを利用しているケースが多く、Microsoft広告の効果が期待できる。
留意点として、日本国内におけるBingのブラウザーシェアは約11%で、Chrome(約56%)の1/5以下にとどまります。 そのためMicrosoft広告の全体的な影響力に期待し過ぎない方がよいでしょう。

Microsoft広告は獲得効率の高い検索広告もできるため、もし未実施の場合はまずは検索広告から開始するのが推奨です。
Microsoft広告の詳細はこちらをご覧ください。
モニタリングの重要性
これまで紹介した方法以外にも自社の商品・サービス特有の傾向によってターゲット含有率の違いや収益性に差異が生じる可能性は高いため、それらを容易に気づけるよう環境づくりをしておくことも重要です。
すでに紹介した切り口と重複するものもありますが、例としていくつか挙げるとこのようなものがあります。
- 流入元(媒体)
- 広告種別(検索・ディスプレイなど)
- 業種
- 規模(従業員数)
- 商品
- CVポイント
- LP
- バナー
- キーワード
弊社ではこれらデータを顧客のCRMやSFAと接続し、BI上で表現することで今回ご紹介したような傾向に気づきやすい環境を構築しています。
BIを使って業種や業界の比率を可視化できるようにしておくと、
- 小売からのリードが多いから、小売業界に特化して事例集を作成しよう
- Facebookもエンプラ率が高いから、予算をアロケーションしてみよう
このようなアイディアが出てくるかもしれません。


また、時系列(週や月ごと)に推移を見れるようにしておくと、
- この月だけエンプラ数が多いのはなぜか?
- 調査レポートのまとめ資料をメルマガで配信していたからかも?
といった考察に繋げられる可能性もあります。
まとめ
エンプラをターゲットとしたデジタルマーケティングは、①限定的なターゲット母数、②受動的な情報収集という理由から成果を上げることが難しいと紹介しましたが、難しいなかでも「どのようにすれば効率的に接触できるか」を考え続けると、いくつか有効な手段を発見することもできました。
一つひとつは小さな改善かもしれないですが、それらを積み重ねることで大きな成果となりますし、冒頭でも紹介したようにエンプラ開拓は多くの企業にとって収益性の高い結果につながります。
ぜひ今回の記事がエンプラ開拓に悩まれる方の参考になれば幸いです。
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